インタビュー

福岡市の中心部に近く、大きな病院やクリニックも並ぶ住宅街に立つ「ひらかわ歯科医院」。
「あなたのからだに優しい治療」を治療方針に掲げる同院には、お子様を中心に家族ぐるみで通う患者さんも多い。
院長の平河氏に、小児歯科や床矯正にかける想いを伺った。

-小さいときの先生はどんな子供でしたか。

LEGOやプラモデルなど、モノをつくるのが好きな子供でした。
保育園の時に、15歳以上向けの商品で喜んで遊んでいた、と祖母に聞いたことがあります。
手先の器用さには自信があるため、仮歯や矯正装置を患者さんの自然な歯に合うように細かく調整することは得意です。

-歯科医をめざしたきっかけを教えてください。

父が技工士、母が衛生士、親戚も歯科医という環境で生まれ育ち、幼い頃から歯科医になることを薦められていました。
反抗する気持ちと、期待に応えたい想いで揺れ動いた青春時代でしたね。
大学受験のときには、「別の分野を学び、なお歯科へ進む気持ちがあれば、途中で編入するのも一つの道」という先生の言葉で、農学部へ。
数年後、病に倒れた父の希望で歯学部の編入試験に挑戦して、自分なりの歯科医像などを考えるうちに、初めて「歯科医になりたい」という気持ちに火が点いたのです。
そこからは、一直線に進んできましたね。

-床矯正に取り組まれたきっかけは何ですか。

勤めていたクリニックで、床矯正を扱っていたことです。
多くの改善症例を実際にみて、これはすごいと感じました。
近年、食生活の影響もあり、本来はしっかりと噛むことで成長するあごが小さなお子さんが増えています。
あごが小さいと、大人の歯が生えるときにスペースが足りず、歯並びが悪くなってしまうのです。

そこで「あごの成長期にあわせて、補助的な役割をする矯正装置を付け、必要な幅に押し広げて、きれいな歯並びにしましょう」というのが床矯正です。
勤務医時代での担当症例やセミナーに参加したり、矯正の専門医の先生に疑問点を聞いて知識を得たり、噛み合わせや解剖学の勉強も重ねて、開業後、本格的に取り扱うにいたりました。

-床矯正を選択するメリットはなんですか。

最大のメリットは、「歯を抜かない」ことで、将来に渡って自然の機能を残せることです。
からだというものは本当に良くできています。
不要なものはありません。
例えば、前歯は交感神経、奥歯は副交感神経に関係しているというデータがあります。
つまり、歯を抜くことは、大切な自律神経のバランスを取るセンサーを失うということなのです。
また、あごの関節は奥歯につながっていて、上下の歯を咬み合わせる時は、奥歯がストッパーの役割をします。
大人の矯正で抜歯の必要な際は、通常抜歯の対象となる4番目の歯が咬み合わせる際の負荷に耐えられるように根が2本あるのです。
それを抜くことは、ストッパーを一つ、外すことになります。
あるべきものをいかすため、子供のうちから気付いた時に、あごを大きくして残しましょう、というのが床矯正の考えです。
あごを広げておけば、仮に、大人の段階で矯正が必要になった際も、矯正がとてもラクになるはずです。

-先生のお子様の存在も、きっかけになったそうですね。

そうですね。子供の歯が生え揃った時に、少し叢生(歯並びの乱れ)がみられたのです。
僕自身、歯並びが悪く、笑うときに口を抑えていたというコンプレックスの記憶があるので、子供にその想いはさせたくないと思いました。

-実際には、どのような流れで治療を始めるのですか。

僕はまず、食事の指導から始めます。
3歳位で子どもの歯が全部生えてくる段階で、将来、あごの開きが足りなくなると診断した時は、食事の改善を指導します。
それでも成長が追い付かずに、6歳位になって「やはり間に合わない」とわかったら、床矯正を提案しています。

「学校検診で歯並びの悪さを指摘された」「近所のママ友達から聞いた」といったきっかけで興味を持たれる親御さんも多いのですが、あくまで主体はお子さんです。
「お子さんと話し合って、するといったら始めましょう」とお伝えしています。
床矯正は、入れ歯のようにお子さんが出し入れするものなので、「やらされた」「やる」では、その後に関わってきます。

余談ですが、昔、歯のない患者さんに「どうして抜かれたんですか」と聞いたら「気付いたら抜かれていた」といわれて、おかしな話だと思いました。
納得の上で行われた治療であれば「抜いてもらった」になるでしょう?
僕は、お子さんであっても一緒に話し合い、一緒にゴールを決めてやっていく治療を大切にしたいと考えています。

-そういえば、先生ご自身でも床矯正をされたそうですね。

自分で体験しないと、説明できないからです。
例えば、10人中9人は全く痛みが出ないのですが、痛みが出るお子さんもいます。
装置をキッチリ合わせて作るので、当たって痛いというケースがほとんどですが、痛みは本人でないとわからないし、共感してもらえないのはつらいでしょう。
大人なので効果は出にくいのですが、話しづらくないか、圧迫感はあるか、入れやすさ・外しやすさはどうか…を体感するために、やっています。

-合うお子さん、合わないお子さんもいらっしゃるのでしょうか。

もちろん、オールマイティではありません。
前提として、床矯正はあごの成長期にあわせて効果を発揮する矯正治療であるため、対象は大体10歳以下のお子さんに限られます。
また、骨格に問題を抱えていたり、嘔吐反射が強く装着ができないお子さんは向きません。

さらに、床矯正はmm単位で矯正していく治療のため、生え変わりの際に歯の移動や動きがそれを超えるお子さんも対象外です。
いずれにせよ、実際に診て、いつ頃を目安にどう治療を行うかを診断しますので、まずはご相談にお越しいただければと思います。

-今後、先生がさらに力を入れていきたいことも教えてください。

当院の特色として、標準的なあごの大きさや歯の配置の模型をみながら、わかりやすく治療計画をご説明していけたらと考えています。
また、情報発信にも力を入れていきたいですね。
歯並びを良くすることは、虫歯や歯周病の予防につながります。

以前、歯周病で歯を失った患者さんが「口いっぱい頬ばって食べたい」といわれた時に、色々な思いを感じて、虫歯も歯周病も元を辿れば子供時代に行きつくことを考えました。
歯磨きの習慣、フッ素のうがい、定期的に歯科に通って手が届かないところをきれいにする必要性を親御さんに伝え、さらに「マイナス1歳からの予防」として、近隣の産科とも連携していけたらと思います。
地域に長く根差して、「かかりつけ医」ではなく「行きつけ医」としてお役に立てたら、とても嬉しいですね。

pagetop